研究集会・イベント

平成28、29年度教育課程研究指定校事業(伝統文化教育) 中間報告

(1)研究主題

子ども・学校が協働する学校生活づくり
~伝統文化教育を活用した学校生活作りを考える~

(2)研究主題設定の理由

本校は昭和46年に福井市中心部に近い水田地帯に開校した。高等部では教科指導の他、職業指導として、陶芸、印刷、織り物に取り組み始めた。また、クラブ活動から始めてきた茶道については、昭和57年度から高等部行事として新春茶会を開催し、お点前の他、そば席も設け本校の児童生徒や恩師を招いてもてなすなど、伝統文化を取り入れた教育活動を実践している。近年、近隣小中学校や地区公民館との交流が進み、地域と連携する基盤ができてきた。

そこで、学校内で取り組んでいる伝統文化に関する実践を通して、家庭や地域の方々とどのように関わっていくことが生徒の自己肯定感、自己有用感を高めることにつながるかを考えた。伝統文化を特別支援教育の教育課程に取り入れ、学校、地域、家庭とのつながりを大事にしながら教育実践することで、現在の自分らしい生活、に結びつくこと、また、それぞれの生活ステージにおける自立と社会参加を目指し、特別支援教育の充実を図ることを目的として主題を設定した。

(3)主な取組

本校は昭和46年の開校以来、伝統文化を特別支援教育の教育課程に取り入れた教育活動を実践しています。福井には「越前和紙」や「越前焼」といった伝統文化・産業が今も残っており、高等部の作業学習では「紙と刷り」・「畑・織り」・「焼き物」の3班編成で活動しています。

紙すき 「紙と刷り班」

「紙と刷り」班では牛乳パックからパルプを取り出し名刺やカレンダー、封筒などを作っています。

 

 

 

さをり織り 「畑・織り班」

「畑・織り」班では、さをり織機やカランコを使って自分の好きな色糸を選び経糸を張り、緯糸を通して反物を作っています。できた反物で筆入れやポーチ、バッグなどを作っています。

 

 

 

電動ろくろ 「焼き物班」

「焼き物」班では、越前の土を使い、機械ろくろ、泥しょう鋳込み、電動ろくろなどの技法で飯碗、抹茶碗や皿などを作っています。

 

 

 

陶芸家を招いて 「技術指導」

焼き物班では、越前焼の地元作家を講師として学校に招き、電動ろくろによる制作や道具の使い方などを習いました。さらに、講師が持ってきてくださった作品を手に持って鑑賞したりすることで、地域の伝統文化について興味関心を持ち、技術の向上と共に制作意欲の向上にもつながりました。

 

 

他校との交流学習 「焼き物班」

焼き物班では他校との交流学習も実施しました。お互いの学校を訪問し、それぞれの学校の陶芸活動を体験しました。相手校の生徒に丁寧にわかりやす制作の手順を説明することで自己有用感を高めたり、分からないことを聞くことで交流を深めたりすることができました。

 

 

新春茶会 「お点前」

毎年1月には、高等部の学部行事として新春茶会を実施しています。この新春茶会に向けて「生活単元学習」では、4月より継続的にお茶を点てる練習に取り組みました。このことが生徒の自信につながり、本番の茶席ではお客様を落ち着いてもてなすことができました。また、12月からは、小・中学部の児童生徒にも茶席での作法を身につけさせるために、練習の席に招き、おもてなしの心を一緒に養いました。ここで使っている抹茶碗や銘々皿などは焼き物班で制作した作品です。

新春茶会 「お茶席」

お茶席の様子です。
お客様として、本校児童生徒、保護者、学校関係者、福祉関係者をお招きしました。お点前は主に卒業する3年生が務めます。招待した家族や、前の学校でお世話になった先生、就労先でお世話になる職員の方にお点前を披露することで成長した姿を見てもらい、一服のお茶に感謝の気持ちやおもてなしの心を感じ取っていただけたと思われます。

 

新春茶会 「蕎麦席」

茶会の後には蕎麦席を設け、福井の名物「おろし蕎麦」をお客様にふるまいました。
写真は、お客様として来た小学部の児童が、高等部の先輩のあざやかなそば切りの様子を見ているところです。この蕎麦打ちも、4月から「生活単元学習」として継続的に練習してきました。蕎麦席で使用する、そば鉢や湯飲みは全て「焼き物班」の生徒が作った作品です。作品を実際に手にして使ってもらうことで、沢山のお客様に生徒が作った焼物の良さを実感してもらうことができました。

 

校外虹の市 (販売活動)

作業学習で作った作品を校内外で展示・販売する活動を虹の市と称して、計画的に実施しました。
写真は9月に福井市内の量販店で行われた福祉バザーに参加したときの様子です。生徒が日頃作っている作品を直接販売することで、お客様とのコミュニケーションの場が生まれ、知的障害を持つ生徒や特別支援学校の活動の取組を地域の人に理解してもらうことにつながりました。
自分たちの作品をお客様に買ってもらう経験を通して、生徒は仕事への意欲を高めたり、人と積極的に関わろうとしたりして、将来の社会生活をイメージすることができました。

 

 

校外虹の市 (販売活動)

この虹の市では、生徒は能力に応じて、売り子、会計、包装などの係に分かれ、おそろいのポロシャツ、エプロンを着けて販売活動に取り組みました。
売り子の生徒は、お客様の要望に応えて作品を選んだり、作品の良さを自分の言葉で説明したりして、精一杯接客に取り組んでいました。

 

 

地区の公民館まつり

10月には、地区の公民館まつりに参加し、虹の市を開催しました。毎年、継続して参加してきたことで地域の方からは、「こんな商品を作って欲しい」、「〇〇さんの作品が欲しい」といった声が聞かれるようになりました。こういったコミュニケーションが生徒の制作意欲や自己有用感を高めることにつながりました。

 

 

地区の公民館まつり

写真は、公民館まつりで中学部がダンスを披露しているところです。小学部の児童も和太鼓の演奏やダンスを行いました。

 

 

 

地区公民館サークルとの交流
(作業学習体験活動)

この2月には、公民館で活動しているサークルの方が来校します。今年で3年目になりますが、普段、生徒が取り組んでいる紙すき、織り、焼き物の3つの班に分かれてもらい、伝統工芸品作りを体験してもらいます。
写真は、昨年度のもので、すいた和紙の水切りをしているところです。生徒が直接説明しながら一緒に体験してもらうことで、伝統工芸品作りの楽しさや難しさ、伝統工芸品のもつ良さを地域の方々に伝えることができました。

 

紙刷り (名刺作り)

完成した和紙を使って名刺作りをしているところです。生徒は、名前や住所の入力の方法を丁寧に説明していました。

 

 

 

 

このように、伝統文化教育を活用した学校生活の中で生徒は、地域の人と交流することで、相手に対する気遣い、いわゆる「おもてなしの心」を培うとともに、日々の作品作りや販売会でのお客様対応に積極的に参加できるようになってきています。
また、これらの活動で他者からの意見を素直に受け入れ次の作業学習に生かそうと努力する姿も見られてきています。

(4)今後の取組

  • 学校(本校)が立地する地区公民館の方々と協議しながら連携をより深め、生徒が伝統文化活動を展開するためのカリキュラムを編成する。
  • 校内外の「虹の市」をより発展させ、伝統工芸の良さを広げるために、地域の人たちが体験できる機会を充実する。
  • 地域の人たちと共に伝統文化活動(伝統工芸品作り、お茶、そば打ち)を実施する。
  • 伝統文化活動を通して、児童生徒の日常生活の変化をとらえ評価する。