教職課程を最適化し高度化する
「リエゾン型学びのネットワーク」へ

教員養成フラッグシップ大学とは何か

「令和の日本型学校教育」を担う教師育成を先導し、教員養成の在り方を改革する中核大学を文部科学大臣が指定する制度が、「教員養成フラッグシップ大学」制度です。フラッグシップ大学に求められているのは、文部科学省が掲げる「7つの重点課題」に応えながら、従来の「知識伝達型」から「探究・協働型」に学習観・授業観を転換し、教員養成を新たな次元へと変革する牽引役となること。

指定を受けた大学には、免許法施行規則の一部科目を新設科目に置き換えて免許取得を可能とする特例が適用されます。現在、東京学芸大学、大阪教育大学、兵庫教育大学、福井大学の4大学が指定を受けており、それぞれの特色を活かしながら、研究と人材育成の拠点として全国の教員養成の高度化に貢献するとともに、その成果を広く共有しながら、我が国の教師教育の発展を先導しています。

令和の日本型学校教育を担う教師育成における7つの重点課題

① 学習者(子供)中心の授業デザイン・学習活動デザインへの理解増進、ファシリテーターとしての意識向上

② 教育学・学習科学に基づく省察的実践を通じて学び続ける教師としての意識・態度の育成

③ 学習者中心の視点に立った教職科目体系の見直し

④ 教師・保護者・地域・専門家等と協働する態度や、協働できる組織マネジメントの資質・能力に育成

⑤ 教育データサイエンス・STEAM教育を先導する人材の育成

⑥ 障害のある児童生徒(ギフテッドを含む)、外国人児童など、多様な背景を持つ子供への理解・対応力

⑦ 学部と教職大学院の一体的な教員養成カリキュラムの検討、現職教員研修との連携の在り方の検討

膨れ上がるカリキュラムと旧来の学習観

日本の教員養成プログラムはいわば「栄養過多」状態になっています。良いと思うことを教える側がそれぞれ追加し続けた結果、カリキュラムは膨張し、誰がいつどこで何を教えているかさえ把握できなくなっている。さらに問題は、「旧来の学習観」に基づいた制度設計のまま、新しい時代に必要な力を育てようとしていることです。

時代が求めているのは、知識・技能・態度が組み合わさって主体的に発揮される「コンピテンシー」です。それはカリキュラム全体を通して育まれるものであり、科目の足し算による旧来の方式では、育てることはできません。

旧来の学習観 vs 新しい学習観:「ブロックを一個一個積み上げてピラミッドを作る」イメージから、「多様な知識・技能・態度が組み合わさって発揮されるコンピテンシー(資質・能力)を育む」イメージへの転換が求められています。

「リエゾン型学びのネットワーク」というソリューション

福井大学が提唱するのが、「リエゾン型学びのネットワーク」です。

複数の科目や学年、そして学びの「場」を架橋し、多層的・多重的な「つながり」をカリキュラムに組み込むことで、理論と実践の往還を促しながら、学びの変容・深化を促します。

個々の知識や経験などの学びを動的なネットワークに編み上げ、学び続ける教師としてのコンピテンシー(資質・能力)の形成を目指します。一つの科目が孤立してあるよりも、科目と科目が重なり合い「つながる」ことで、学びは深まっていく。

「響きあうことで深まる学び」――それが「リエゾン型学びのネットワーク」のコンセプトです。

リエゾン(liaison)とは「架橋・連絡・つながり」を意味するフランス語。ある事柄について、この先生はこう教える、あの先生は違う教え方をする――片方だけを聞くとぼんやりとしか分からないが、両者を聞くことでトータルとして深く理解できる。科目と科目の学びがつながることで、個別の知識や経験が結びつき、より深い理解が生まれます。

(表)理論と実践を往還する教職科目のカリキュラム構造

※教職の基礎理論の講義期間の前後に、実践の中の理論を異学年協働で探求する期間を設定
 →実践を想定した状態で基礎理論を学び、学んだ基礎理論を他学年と協働で繰り返し吟味できる形を具現化

「足すよりつなぐ、リエゾンさせる」という発想

フラッグシップ大学に求められる「変化が激しく予測困難な時代に対応するための学習観・授業観の転換を担う教師の育成」。この課題に対して福井大学は、新規科目を追加するのではなく、できるだけ少ない新設科目で対応する「ミニマムな免許課程への再構成」を基本方針としました。
一つの科目が複数の目標を横断的にカバーするカリキュラムを設計することで、新設科目は5科目7単位にとどめました。

協働的・実践的、そして生涯の学びを支える仕組み

リエゾン型学びのネットワークは、二つの仕組みによって支えられています。
ひとつは「リエゾン・プラットフォーム」。教職4科目を異学年・異コースの学生がチームで協働しながら探究を進めるとともに、その成果を高校生や学外教育関係者に発表することで、多様な人々との対話や学び合いを促す仕組みです。
もうひとつが「リエゾン・スパイラル」。新設したフラッグシップ4科目(後述)を通して、理論と実践の往還サイクルを加速する仕組みです。1年次から地域の実践コミュニティに参画しながら省察的な学びを体験し、実践を通して学びを深めていきます。

学部から大学院へ――5年一貫型教師教育

大学院科目の先取り履修制度により、学部と大学院合わせて5年で修了できる仕組みもスタート!

リエゾン型学びのネットワークは、学部教育だけを対象とした仕組みではありません。
福井大学では、学部と教職大学院を接続した一貫型の教師教育システムを構築し、令和7年度から実装しています。学部で培った協働力や省察力、理論と実践を往還する力は、教職大学院における学校拠点型の実践研究へと引き継がれ、さらに発展していきます。大学院科目の先取り履修制度により、学部と大学院を合わせて5年間で修了することも可能となりました。
教師としての学びを学部卒業で終わらせるのではなく、大学院、そして現職教員としての成長へとつなげていく。さらに NITS(教職員支援機構)などとの連携を通して、「学び続ける教師」を支える仕組みを整えています。
学部から大学院へ、そして教師としてのキャリアへ。福井大学は、教師の生涯にわたる学びを見据えた一体的な教師教育を実現しています。

(図)大学院科目の先取り履修制度による5年一貫型教師教育のイメージ

2025年度実績
学校・大学・教育機関を結ぶ実践のネットワーク

  • 拠点・連携学校90校園
  • 連携教育機関13箇所
  • 連携企業8社
  • 連携大学12大学

理論と実践の往還サイクルを加速

協働学習支援プロジェクト、STEAM・総合探究、心理発達支援プロジェクト、地域実践演習の4科目は、それぞれ異なるフィールドを舞台に、学生が実践を通して学ぶ機会を提供しています。
教室で得た知識を現場で試し、現場で出会った課題を大学へ持ち帰って考える。その繰り返しによって、理論と実践、個人と協働、大学と地域をつなぐ学びの循環が生まれます。
学生はこうした経験を重ねながら、自ら問いを立て、多様な人々と協働し、学び続ける教師へと成長していきます。

(表)理論と実践を往還する教職科目のカリキュラム構造
(表)異学年協働・リエゾン科目群の事例

基礎理論を学ぶ科目と実践科目を連続的に配置することで、学生は学校や地域の実践に参画しながら、理論と実践を往還しつつ、異学年協働で学びを深めていきます。

データから読み解く成果

フラッグシップ関連教育課程検証専門部会による調査では、科目数・単位数を見直したことによる学生への大きな影響は認められませんでした。また、旧課程の現3年生と新課程の現2年生について、同時期(2年後期)における第3・4欄科目の成績(GPA)を比較した結果、統計的な差は認められませんでした。
さらに、新設したフラッグシップ科目に関する学生アンケートでは、教育データサイエンスやSTEAM教育など今後の課題も見られた一方で、「学び続ける教師としての意識・態度」「多様な子どもへの理解・対応力」「協働する態度や組織マネジメントの資質・能力」などについては、良好な結果が得られました。

学び続ける教師としての意識・態度が身についた 

協働学習支援プロジェクト81.6% 、地域実践演習93.1% 

協働する態度・組織マネジメントの資質・能力が身についた 

地域実践演習89.7% 

多様な子どもへの理解・対応力の修得に役立った 

心理発達支援プロジェクト86.7% 

どの大学でも展開できる

福井大学の取り組みは、福井大学だからできることを追求しながら、少しずつ構築してきたものです。一方で、各大学が自分たちのこれまでの実践を「棚卸し」し、その強みを活かしながら「つながり」を可視化する、という考え方は他大学とも共有できるものだと考えています。
福井大学では、科目数を最小限に抑え(幼51単位、小中高59単位)、既存科目とフラッグシップ科目を有機的に架橋することで、「理論と実践の往還」「異学年協働」「大学と地域の交流」を実現する学習モデルを構築してきました。このような考え方や仕組みは、教員数に限りのある大学でも、段階的に導入することが可能です。

新しい科目や内容を次々と加えていくのではなく、既存の学びを見つめ直し、そのつながりを活かしていく。そうした発想の転換が、これからの教員養成を考える上で重要になる――福井大学はそのように考えています。